どんな仕事でもそれなりにストレスがあるものですが、特に若手の現場監督が悩みがちなストレスの一つが、職人とのコミュニケーションではないでしょうか。
「職人に軽く扱われる」「職人への指示出しがうまくできない」といった声がよく聞かれます。職人に慕われているかどうかで現場監督としての実力がわかる、とまで言われますが、職人との良好な関係はどのようにして育めばいいのでしょうか。
現場監督に求められる能力のうち、最も大切なのがコミュニケーション能力と段取り能力です。
その日にすべき作業を職人たちが安全にこなしていけば、現場監督の仕事はまずまず順調だと言えますが、そのためには、職人さんとしっかり打ち合わせをしたり、コミュニケーションをとる必要があるわけです。現場におけるコミュニケーション不足は、品質の低下や工程の遅れなどにつながっていきます。
コミュニケーション能力が高く、段取りがいいということは、職人たちが気持ちよく働き、工期通りにきっちりと現場を仕切っていくことができるということになります。その結果、職人たちも「この監督となら良い現場ができそうだ」と感じ、おのずと慕われていくというのが理想です(職人たちのほうが年長であることが多いので、慕うというより「可愛がってくれる」という感じかもしれませんが)。
良好な関係を築くために一番大切なのは、職人たちに対するリスペクトを根底にもつということです。日常の普人間関係も同じですが、相手のことを知って尊重する気持ちを持つことは、コミュニケーションを深める第一歩なのです。
彼ら職人同士は、互いにリスペクトしあっています。家づくりというものは仕事が非常に細分化されており、地盤改良、基礎、仮設、足場、建方、左官、防水、屋根、内装、電気、ガス、水道、設備、外構、造園といった工程を専業とする職人が入れ替わり立ち替わり作業をすることになります。その一人一人がプロフェッショナルで、高い技術をもって分担することによって、良い家が建つのです。だから、職人はたちは互いの仕事と存在をリスペクトしているといます。気むずかしいように見える職人も、自分ができない仕事をしている他の職人には、相手の立場を尊重した態度をとるのです。
そういう意味では、職能の外にいる現場監督と、職人たちの間には一種の壁があるとも言えます。しかし、現場監督としては、あくまで対等の立場で職人さんと付き合うことが大切です。職人たちは、仕事の付き合い以前に、人と人の付き合いを重視しています。まずは大きな声で挨拶をする、年長の職人には敬語で接するなど、言葉づかいや挨拶には気をつけましょう。
また、現場監督としての、仕事に対する「やる気」「気概」を見せなければ、職人たちはついてきません。誰より早く現場に到着して仕事をする、率先して現場の掃除を始めるなど、できることから仕事に対する情熱を見せていくと効果的でしょう。
職人に指示を出すときのコツは、第三者が見てもパッと理解できるぐらい、わかりやすく明確にすることです。図面や、ときにはマンガのような絵まで描いて、寸法を細かく記入するのはもちろん、それだけじゃわかりづらいときは口頭で補足するといった徹底的な配慮が大切です。
ランチタイムやちょっとした休憩の間にもコミュニケーションを欠かさず、丁寧にミーティングを重ねましょう。
どうやれば二度手間が減るか、どうやればコストかけずにできるか、どうやれば職人さんが楽に作業ができるかといったことを常日頃から考えていれば、職人さんとの信頼関係が自然に構築されていきます。
職人の側では、じつは現場の雰囲気や現場監督の様子をよく観察しています。
この現場は厳しいのか、ゆるいのか、安全管理や施工管理は厳しいか、現場監督はできる人間か、それとも無能なのか。
職人が考えていることは、できれば楽に、簡単に、そして思い通りに作業したいということです。自分たちがよりスムーズに作業でき、手戻りが発生することなく、効率よく作業したいのです。
その点、職人と現場監督の理想は一致しているとも言えます。しかし、現場監督は、工事全体の効率性や安全性、施工品質、その他トラブルに結びつくような事柄について責任を担っています。不適切なことに気づいたら、現場監督は事前にそれを是正しなくてはならない立場にあります。
だから、現場監督は職人の心理を踏まえたうえで、現場のルールを貫かなくてはならないのです。
もし、急な作業の変更が発生した場合には、職人に指示を出さなければならなくなります。
このとき、大事なことは、しっかり頭をさげてお願いすることです。職人は現場監督の部下ではありません。命令口調では誰一人協力してくれません。しっかり頭を下げ、心の底からお願いすれば、職人も必ず手を止めて聞いてくれます。
工期と仕上がりのバランスに一家言ある、こだわりの強い職人もいるかもしれません。でも、筋が通っていれば彼らも必ず話を聞いてくれます。職人たちの意見も聞き入れ、その上でこちらのやりたいことをお願いしましょう。相手の主張をしっかり聞きいれつつ、自らも汗をかく姿勢を持つことが大切なのです。意見が食い違ったときは、お互いが納得するまで話し合いましょう。
こういった話し合いは前向きな議論となり、よりよいものを作るための原動力となります。真剣に議論する中で、口調が強くなることもあるかもしれません。しかし、その根底にあるのは「よりよい家を作りたい」「いかにお施主さんの目線に立てるか」という、家づくりへの熱意です。そのような真摯な姿勢が、現場監督としての示しをつけるためにも重要です。
現場監督になりたての若手にとっては、職人は気むずかしい人が多く、取りつく島がないように見えることでしょう。
職人たちの典型としては、
という人々であると言えると思います。
現場監督という仕事は、家づくりの仕事の大半を担う重要な役割を担う、誇り高き仕事です。
新米の現場監督は、知らないことばかりですから、職人の仕事ぶりを見て聞いて仕事をおぼえていくことになります。わからないことだらけの間は段取りも作業指示もうまくはできませんが、職人たちは意外とそういったことに「新米だからしょうがない」という寛容な面もあります。そのように職人に育てられて、現場監督として効率の良さや要領の良さ、現場の円滑化を考えれるようなスキルを身につけていくことになるのです。
本サイトでインタビューさせていただいた株式会社サティスホームの現場監督、小林 大将さんも、次のようにおっしゃっています。
職人さんは、良い仕事をする監督についてきたがります。それで僕が心がけているのは、職人さんがミスらないように、これは大丈夫、これは気をつけないといけない、ここは盲点だよ、と教えてあげることです。すると「なるほど、監督のいう通りやな、ミスなくできたな、成功したな、あいつのおかげやな」と思われて、もう黙っていてもコミュニケーションができるようになります。
職人さんの次の仕事があるかどうかは、聞いてあげる。職人さんはサラリーマンじゃないから、先まで仕事が決まっていることがない。次の仕事を聞いてあげることによって、自分たちの生活を心配してくれていると思われて、「本当の仲間」という意識ができる。監督の立場からいうと、最大のコミュニケーションは相手の心配をしてやることだと思います。
惰性で現場監督の仕事をしていないかをつねにチェックしながら、誇りをもって現場監督の仕事をしていきましょう。