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コンサルタントとして、「デザイン思考(Design thinking)」という言葉を耳にされたことがあると思います。
「デザイン思考」は、グローバルでは、アップルやグーグル、サムスン、GEなど、世界を先導している企業がフレームワークとして採用し、国内でも、ソニーやヤフー、日立製作所などの大手企業が取り入れています。
これまでに紹介してきたロジカルシンキングとは異なり、デザイナー的視点のクリエイティブな思考で問題を解決するイメージです。
今回は、このデザイン思考の具体的なプロセスや、実際にどのように仕事に活かせるのかを紹介していきます。
「デザインって、デザイナーの仕事じゃないの?」
デザインというと、ファッションやグラフィックのことと思ってしまう人が多いと思います。
デザイン思考とは、デザインに必要な考え方と手法を利用して、ビジネス上の問題を解決するものです。
じつは本来、「デザイン」という言葉には「設計」という意味があります。
さらに、もう少し具体的にいうと、「新しい機会を見つけるための問題解決プロセス」という意味があるのです。
デザイン思考とは、デザイナーがデザインを行っているプロセスや考え方を、ビジネスに転用したものです。
デザインしたサービスやプロダクトの先にある顧客を理解し、顧客と問題とを結びつける仮説を立て、問題を再定義して、戦略や解決策を作り上げるプロセスが、デザイン思考です。
従来とは異なるプロセスであるデザイン思考で取り組むことで、新しいチャンスを見出すことができます。
デザイン思考は、抽象的なアイディアから現実的なプランを抽出し、最終的にはまったく新しい創造を生み出します。
その過程で、本当の問題は何か、仮説は本当に正しいのか、この現象が意味するものは何か、といった疑問に自問自答しながら、問題解決を行っていきます。
デザイン思考は、あらゆるビジネス、あらゆる部門や役職で活用でき、また、スタッフ全員が参加して行うものです。
デザイン思考は、すべてのビジネスパーソンが理解し、実践することを求められているアプローチです。
デザイン思考は、なぜ今、注目されているのでしょうか。
今、ビジネスは非常に早いスピードで、予測できないような変化をつねに遂げています。
また、その原因は複雑に絡み合っていて不明瞭そのものです。
多くの産業が成熟したために技術が不断に発展しつづけ、そのため製品サイクルも加速する一方です。
消費者の購買行動も様々に多様なものとなり、変化と競争の激しい時代です。
さらに、製造業の分野などにおいては、インターネットと人工知能の活用が進んでおり、社会構造そのものも変化しつつあります。
従来、新たな製品やサービスを生み出すためには、マーケティングリサーチを行ってきました。
市場やニーズについて調査し、その結果を分析し、仮説を立て、検証し、それを元に製品開発などを行ってきたわけです。
しかし、そもそもマーケティングリサーチを実施するためには、事前に、ある程度正確に「問題は何か」ということを把握している必要がありました。
ところが、そのようなやり方で、会社目線で一方的に商品を作るのではなく、顧客の視点に立って顧客のことを考えなければ、モノが売れない時代となっているのです。
予測困難な時代になったことで、従来のようなマーケティングリサーチに頼ったアプローチでは、問題の本質を見きわめることが難しく、また時間もかかってしまいます。
デザイン思考は、従来の市場中心的なアプローチではなく、人間、つまり顧客を中心とした問題解決のプロセスです。
だから、人々のニーズからその課題の本質を見きわめることになります。
そのため、デザイン思考によって、単にこれまでの延長線上ではない、まったく新しいアイデアが得られます。
また、デザイン思考のプロセスを行っていくには、チームが必要になり、チームメンバーの間では積極的にコミュニケーションが行われることになります。
そのプロセスにおいては、役職や上下関係などは関係なく、メンバー全員が平等に発言権を持ち、どのメンバーのアイデアも同じように重要に扱われます。これにより、積極的なアイデア創出のマインドが醸成されます。
自ら課題を設定し、市場を生み出し、ビジネスチャンスを手に入れるために生まれた、これまでの価値観にとらわれない課題解決の方法が、デザイン思考なのです。
デザイン思考のプロセスを具体的に見ていきましょう。
デザイナーは、まずデザインし、優れたデザイン方法を学び、教えあい、人間中心的なアプローチで自らを表現し、問題を解決していきます。
これには5つのプロセスがありますが、それぞれのプロセスを順番に行うというよりは、同時に行われたり、互いに影響しあいながら繰り返していくものです。
共感とは、顧客を理解することです。
つねに顧客の視点、目線で考えることで、背景や課題が見えてきます。
顧客がなぜ、どのように行動するのか、ニーズは何なのかを、自分で体験してっみたり、顧客にインタビューしたり、顧客の行動を観察したりすることによって探り、顧客が潜在的に求めていることを見つけ出します。
マーケティングでよく行われるプロファイリングのように、年齢や性別・年収からペルソナを設定したりするのではなく、「どのような動機・理由でその商品やサービスを使うのか」といった論理から顧客の行動に共感していくのです。
とくにインタビューは、顧客の潜在的なニーズを見つけるために有効な手段です。
ただ話を聞くだけではなく、相手も自覚していないような課題を引き出すことができれば成功と言えます。
「共感」では、顧客が困っていることや、なぜ困っているか、つまり潜在的なニーズを抽出しました。
そこで、状況を整理し、問題の発生にはどのような要因があるのか、ということまで分析して、コアとなる「解決すべきニーズ」をクリアにするのが「定義」のプロセスです。
そこから目指すべき方向性やコンセプトを確立します。
「問題定義」で設定された方向性を実現するために、アイデアを出すプロセスです。
チームメンバーを呼び集め、現実性は加味せず、常識はずれでもいいので、質より量を優先してブレインストーミングを行い、チームのメンバーが思いついたことをアウトプットしていきます。
どんなアイデアが顧客に受け入れられるか、思いつく限りのアイデアを出してみるのです。
「概念化」で出たアイデアのうち、支持が集まったものを試作してみます。
プロトタイプを繰り返し作成することにより、様々な可能性を試してみましょう。
実際にプロトタイプを作成することで、アイデアがより具現化でき、さらにイメージが湧きやすくなります。
この段階での目標は、アイデアの中のどの要素がうまく機能し、どれがうまく機能しないかを理解し、アイデアの効果と実現性を天秤にかけて検討していきます。
プロトタイプのユーザーテストを行うプロセスです。
実際の顧客の意見を聞くことで、「定義」のプロセスで設定された課題を解決できるのかを検証します。
冒頭で述べたように、「デザイン思考」はこの数年でとても有名になり、様々なところで目にする言葉になっています。
「これからのビジネスでは、イノベーションを生み出すためにデザイン思考が重要だ」
などという表現は、ビジネス書籍や雑誌、インターネットなどでもよく目にします。
しかしながら、本来の意味を理解している人はそれほど多くないというのが実情のように思われます。
ビジネスの世界では、長く、顧客満足ということが言われてきましたが、満足を超える「感動」を顧客に与えることが、今、目指されています。
製品やサービスを中心にビジネスを行うのえはなく、顧客である人間を中心にビジネスを設計すること、それがデザイン思考です。
顧客を理解するために、顧客を洞察し、観察し、そして共感することからデザイン思考が始まることをおぼえておきましょう。