前回、ファシリテーションに役立つ5つのメソッドという記事で、話し合いの参加者のモチベーションを上げていく5つのメソッド「アイスブレイク」「ブレインストーミング」「ポジショニングマップ」「バタフライテスト」「ペイオフマトリクス」を紹介しました。
家づくりに際し、今後の生活を決める家族会議では、全員の納得が得られ進めていくことが大切です。
今回は、このファシリテーションのスキルが、どのように現場で活かされるのかという例を見ていきましょう。
前回も具体例を出したので、今回は一歩進んだ応用編としてご紹介しますね。
ここでは、例えとして、夫婦の対立が生まれやすい「書斎の有無」を議題にしてみましょう。
書斎というのは概して旦那様が希望する場合が多いですが、奥様から見ると、“なくても困らないもの”ということになり、それよりは収納を増やしたいと反対されることになります。
スペースは限られていますので、収納か書斎かということで意見が分かれた時には、解決法として、たとえば次のようなパターンが考えられます。
これはいわば「落としどころ」として、住宅コンサルタントがもっていなければならないものではありますすが、参加者に事前に開示する必要はなく、むしろ最後まで口にしないほうがいいでしょう。ほかにも解決法はありますし、参加者のアイディアや気持ちを狭めることになってしまうからです。
それではまず、家族会議の日程を決めましょう。
忙しい家族もいるかもしれませんが、原則的には全員参加です。意見が重視される旦那様と奥様だけでなく、当事者ではないお子さんたちや、おじいちゃん、おばあちゃんといった方々にも参加してもらってください。
いよいよ家族会議が始まったら、まずは「アイスブレイク」を用いて、どんなことでもいいので、家族の共通の話題を出して、その場を和ませましょう。
たとえそんなに時間の余裕がないような場合であっても、このアイスブレイクの作業を怠ってしまうと、その後のファシリテーションの効果が薄れてしまいます。無駄な作業のように思うかもしれませんが、おろそかにはしないでください。
話題は、家族が雑談できる話題であれば何でもかまいません。
今日はどんなことがあったか、今日の夕食は何にしたいか、テレビのモーニングショーで扱っていた話題、前の晩のドラマの話などでもいいでしょう。
大事なのは、家族全員に発言をしてもらうことです。本題では、ご主人と奥様の意見がどうしてもクローズアップしてしまうので、それ以外の方の発言をいかに引き出すかということが、この家族会議の大事な目標です。アイスブレイクのの段階で、それらの人々が気がねなく発言できるような空気をつくりましょう。
アイスブレイクによって参加者の緊張をうまくほぐすことができたら、いよいよ、メインの議題である「書斎は欲しいと思うか」について、それぞれの意見を言い合ってもらいましょう。
このとき、もし、どちらでもいいと思っている人がいるなら、それでもかまいません。それも一つの意見ですから、「どちらかといえばどちらですか」などと食い下がる必要はありません。遠慮なく、「どちらでもいい」という意思の表明をしてもらいましょう。
ここでも、くれぐれも、全員が発言できるようにしてくださいね。
旦那様が「書斎を持つのが夢だった」と言ったり、奥様が「だったら、そのスペースを家事室にしたい」と言ったりすることでしょう。
もし、現実的でないような意見が出てきても、ここでは大歓迎です。ただし、人の意見を評価することのは禁止です。頭ごなしに反対したり、賛成することで多数決的な雰囲気ができてしまうことは避けましょう。
質の高い意見を集めるよりも、意見の量を重視してください。ただし、脱線してもいいということではありません。あくまでも「書斎があったほうがいいかどうか」という議題からはずれないように、紙に書いて見せたり、ホワイドボードに書いたりして、視覚化することで、会議が方向性を見失わないようにサポートしてください。
ブレインストーミングを続けるうちに、お子さんやおばあちゃんたちなど、直接利害が関係しない家族にとっては、意見についていけなくなるかもしれません。また、夫婦の意見が平行線のまま進まなくなったりすることもあるでしょう。
その時は、中だるみを締める意味でも、「ポジショニングマップ」を使って、全員が視覚的に見ることができる資料を提示してみましょう。
この資料は解決法について書かれたものではなく、今のブレーンストーミングによって出た論点を整理するものです。ですので、事前に用意できるものではありません。
その場で、大きな紙やホワイトボードに書いたもので十分ですが、できればカラーペンなどを用いて視覚的にわかりやすいものにしましょう。
時間がない場合は、一度ここで1回目の家族会議を打ち切り、また別な日にポジショニングマップを用意した上で、「アイスブレイク」の後に、いきなり見せるということから再開するというのでも構いません。
もちろん、ひとつの議題を一気に進めることができれば、それに越したことはありません。でも、中だるみのまま進んでいくよりは、また日を設定して仕切り直した方がより効果的な場合もありますので、適宜判断してください。
こうして、だいたいの方向性が見えてきたら、最後に結論を家族で出しましょう。
ここまでのステップをきちんと踏んでくれば、この時点で、すでに家族全員が同じ方向を向いていることが多いと言えます。
もし、それでもまとまらない場合は「バタフライテスト」や「ペイオフマトリクス」に頼ってみてください。
「バタフライテスト」は多数決のことですが、全員が平等に票を持っていますので、結論はとても明確で、納得してもらえるはずです。家族全員が冷静に考えた結果なのですから、尊重すべき結論であると言えます。
「バタフライテスト」は、各々の意見がきちんと見えるようにしてくださいね。家族同士なので、わざわざ無記名で投票するようなことはないと思いますが、誰がどんな意見を持っているのかを全員が知ることが大切です。ここでも、「賛成」「反対」だけでなく、「どちらでもよい」などの選択肢を残しておきましょう。
投票をシールにして壁やホワイトボードに張っていったり、コンサルが似顔絵の書いた投票用紙を用意して工夫したりすると、和やかな雰囲気で進められますよ。
そんなちょっとしたことで、あなたのアイデアが光らせてください。
「ペイオフマトリクス」の場合も同じです。
意見の優劣をわかりやすく視覚化するわけですが、例えば、賛成や反対の理由となる軸を視覚化してあげ、自分の意見はどこに位置するかということを考えてもらうわけです。
今回は、住宅のコンサルタントにとって、最もファシリテーションが役に立つ場面として、家族会議を例して紹介をしてみました。
家族の誰もが妥協しない話し合いによって、幸せな新居生活をスタートできるように、コンサルタントとして、しっかりとお施主さんを支えていきましょう。