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なんらかの問題を解決しようとするときに、あなたは「情報は多ければ多いほどいい答えを出せる」と考えてしまっていませんか。
もちろん情報を集めること自体は誤りではありませんが、徹底的に情報を集め、それを分析し、課題の本質を見きわめてから解決策を見つけようとするのでは、時間切れになってしまうかもしれません。
情報収集は、えてしてそれ自体が目的化してしまいがちです。情報集めや分析に時間がかかってしまったために、最初に決めた期間内で意思決定できずに、結局、解決策を実施するところまでたどり着けずに手遅れになってしまったら、それはまさに本末転倒です。
そんなことにならないように、住宅業界のコンサルタントとして習得してほしいスキルのひとつが、今回紹介する「仮説思考」です。仮説思考は意思決定の質を高めることにつながり、仕事のスピードが上がるだけでなく、仕事の質も高くなります。
たとえばドライブに行こうと計画するときに、「きっと連休中は道路が混むだろう」と予想したりすることがありますよね。
これは、ひとつの仮説です。
そこで、過去の連休で実際に道路が渋滞したかどうかを知人に聞いてみたり、ネットの渋滞予想を調べたりしたら、それは仮説を検証していることになります。
「渋滞するだろう」という仮説を正しそうだと判断したら、きっとその日は、早い時間に出発するでしょう。それでも渋滞につかまってしまったら、次回はもっと早く出ようと思ったり、空いているルートを探してみるかもしれません。
このように、私たちは、じつは仮説・検証・仮説の修正などを、日常の生活でなにげなく実施しています。
上の例で、従来に関する情報やデータをくまなく集めて分析したりするでしょうか。
たとえ判断材料が乏しくても、まずはおよそのあたりを思いきってつけ、ドライブに出発するのではないでしょうか。そして、ドライブしながら、自分の仮説の精度を補正し、できるだけ早く正しい行動を模索していくはずです。
仮説思考とは、現状分析が十分でなくても、手元にある数少ない情報から、最も可能性の高いものを「あたり」(とりあえずの仮の結論=仮説)と考え、それに基づいて問題の原因と解決策を推論してから行動していく思考法です。
余分な情報に振り回されてしまうタイムロスを排除することで、効率よく問題解決を進めることができるのが、仮説思考のメリットです。
仮説が間違っていることがわかったら随時修正し、新たな仮説を立ててさらに検証していきます。そのプロセスを繰り返すことによって、仮説が次第に正解へと進化していくわけです。
情報が少なくとも、限られた時間の中でまず仮説を立てることが重要で、最初にどれだけ「筋のいい仮説」を立て、いかに素早くそれを検証していけるかということが、コンサルタントとしての能力の差になっていきます。
仕事ができる人ほど、問題を解決するスピードが早いものです。
変化の激しいビジネスシーンでは、集めた情報も刻々と変化してしまいます。
.仮説思考が身についていると、問題の本質を見きわめたり、問題を分解して整理するのが早くなります。家づくりの仕事でいえば、工期から逆算して、いつまでに課題を発見し、いつまでにそれを証明し、解決するための日数を確保しておけば、あとはそのスケジュールをこなしていくだけになります。このようなときに、仮説思考が威力を発揮するのです。
仮説を立ててから動けば、無駄な仕事をすることがなくなり、仕事が早く終わるようになります。スピードだけでなく、仕事の質も高くなります。
仮説思考は、単に仕事が早くなるだけではなく、仕事の質を上げてくれます。これは、必要な情報のみを集めるようになるため、無駄な仕事をすることが少なくなるからです。
仮説をつねに検証して精度を上げていくというプロセスをつねに踏むことで、間違いも少なくなります。また、情報が足りない中で解決策を模索することで、問題解決能力が磨かれていきます。
仮説思考は、人を動かすときにも効果的です。
データを収集して積み上げるのではなく、まず仮説という全体像から入り、検証のために必要な部分にのみ細部にこだわるような思考法を身につければ、全体をつかむ力がつきます。すると、人に仕事を頼むときや、上司に自分がやろうとしていることを説明するときに、大まかな流れを説明できるようになります。大きなストーリーが描くことができるようになり、不足している情報が何かということもわかるようになります。
これはリーダーに必要な「先読み力」「決断力」につながります。
仮説思考はどのような順序で進めていけばいいのでしょうか。
状況をよく観察し、課題の背景にあるものが何かということを推察します。必要ならば、データで裏付けを取ります。
最初の仮説は、思いつきに近いようなものでもかまいませんが、そのためには、状況の全体像を大まかに整理することが必要です。
このような場合、ロジカルシンキングは必要不可欠。とくに、漏れなく、ダブリなくものごとを整理するMECEを活用するのがお勧めです。抜けやダブリがあると、精度や効率が下がってしまうからです。
問題を取り巻く状況を検証していきます。この作業には、「PAC思考」に基づいて仮説の論理的な正しさを検証するのがお勧めです。
PAC思考とは、事実(Premise)・仮定(Assumption)・結論(Conclusion)の頭文字をとったもので、「事実」をもとに「仮定」を設定し、「結論」を出していく思考方法です。
仮定をサポートする事実や反する事実などによって仮定を検証し、仮説が正しいかどうかを検証し、修正していきます。
大事なのは、事実と結論を結びつける「仮定」です(仮説ではないので、注意してください)。仮定を間違えてしまうと、同じ事実からでも異なる結論が導き出されてしまいます。
PAC思考については、「見落としがちな「仮定」の落とし穴を疑う「PAC思考」を身につけよう」という記事で詳しく説明しています。
なるべく具体的な仮説を設定します。具体的であればあるほど、その後のプロセスから多くの情報を得られます。たとえば、結果が数字で表せるようなものが具体的な仮説と言えます。
こうした仮説を複数立て、シナリオ分析を行って、一番適切な解決策を選択します。
シナリオ分析とは、ある決定を行ったときに予想される「リスク」と「リターン」を明らかする戦略論の手法です。最高の結果と最悪の結果をシミュレートしてみるわけです。
仮説に基づいて行動し、その結果を分析して仮説が正しかったかどうかを検証します。
シナリオ分析で想定していた効果が、現実と異なる場合には、MECEによる問題発見のプロセスに戻って適宜修正し、仮説の精度を高めていきます。
以上のプロセスを繰り返していくことで、効率よくかつ迅速に問題解決に取り組むことが出来ます。
仮説思考に慣れていないと、最初に結論(仮説)を出すことができずに戸惑ってしまうかもしれません。思いつきでいいと言っても、「勘」とどこが違うのかと思われるかもしれません。
慣れないうちは、勘で出すのでもかまいません。それでも、まず仮説を立ててみることが仮説思考の第一歩です。
また、仮説を立証するための理論展開においては、話が飛んでしまわないようにします。つながりよく話を展開するために、「なぜそうなの(Why So?)」「だから何?(So What?)」という2つの思考法で、問題の全体像をつかんでください。
この2つの思考法には、そこにある事象や事実のポイントを正確に説明する観察力と、それらの事象や事実を踏まえ、そこにある共通項やメカニズム、法則などを浮き彫りにする洞察力が必要になります。
仮説思考力を身につけるためには、この「なぜそうなの(Why So?)」と「だから何?(So What?)」をつねに繰り返すことが大事です。
仮説とは、何らかの事実に基づいた推論です。
分析がうまい人は、仮説を立てることも上手です。ビジネス能力の高い人は、的を射た、筋のよい仮説を立てられるのです。
ただの思いつきだったものが、裏付けをとっていくことで立派な仮説になります。それが正しくなかったとしても、検証を繰り返すことで、仮説の精度を高めていけばいいのです。
思いつきやひらめきは、仮説を立てるうえで重要な武器にもなります。優れたひらめきは、思ってもいない面からものごとを捉えることにつながります。たとえばお施主様の視点、現場の職人さんの視点、現場に出入りする業者さんの視点、場合によっては競合の工務店の視点で考えることで、あらたな仮説につながる可能性もあります。
まずは早く、いくつもの仮説を立てることで、様々な可能性を考慮し、検証を通じてより良い仮説に改善して精度を高めていきましょう。
もちろん、何でもいいからたくさん立てればいいというものでもありません。
今ある情報の中で。最も正しいと思われる結論が、仮説なのです。
筋のいい仮説を立てるポイントは次のようなものです。
仮説思考は、変化がより激しくなるビジネスの世界の中で、仮説思考は今後ますます重要になっていくであろうスキルです。
しかし、手に入る情報が限られているどころかほとんどなかったり、あまりに知識が不足しているような状況では、筋のいい仮説を立てろといっても、さすがに限界があるかもしれません。
そういった状況に備えて、平時より、自分の仕事に関連する市場の基礎知識などには、目をくばアンテナを張りめぐらせ、幅広く情報と見識を集めておくことが、精度の高い仮説を立てるための早道になります。
そのことは、コンサルタントとしてのあなたの成長のためにも必要なことだと思います。